雑感 アーカイブ

「ああわからない」









「わからない節」




詞:添田唖蝉坊

弾き唄い:土取利行

ああわからないわからない 今の浮世はわからない
文明開化といふけれど うはべばかりぢやわからない
瓦斯や電氣は立派でも 蒸汽の力は便利でも
メツキ細工か天ぷらか 見かけ倒しの夏玉子
人は不景氣不景氣と なき言ばかりを繰り返し
年がら年中火の車 廻してゐるのがわからない
ああわからないわからない 義理も人情もわからない
私慾にまなこがくらんだか どいつもこいつもわからない
なんぼお金の世ぢやとても 赤の他人はいふもさら
親類緣者の間でも 金とひとこと聞く時は
忽ち惠比壽も鬼となり くまたか眼をむき出して
喧嘩口論訴訟沙汰 これが開化か文明か
ああわからないわからない 耶蘇の坊主もわからない
飯も食へない人達に アアメンソウメンうんどんを
食はせるならばよいけれど 聽かせるばかりで何になる
何も食はずにお前等の まづい說敎がきかれよか
ああわからないわからない ゐばる役人わからない
なぜにゐばるかわからない 只ムチヤクチヤにゐばるのか
役人ゐばれば人民が 米搗きバッタを見るやうに
ヘイヘイハイハイピヨコピヨコと お辭儀するのがわからない
ああわからないわからない 今のお醫者はわからない
仁術なんぞといふけれど 本職はおやめでたいこもち
千代萩ではあるまいし 竹に雀の氣が知れん
貧乏人を見殺しに して居る心がわからない
ああわからないわからない 辯護士なんぞもわからない
おだてて訴訟を起させて 原告被告のなれあひで
何をするのかわからない 勝つも負けるも人の事
報酬貪ることばかり 何が義俠かわからない
ああわからないわからない 賢い人がなんぼでも
ある世の中に馬鹿者が 議員になるのがわからない
議員といふのは名ばかりで 間拔けで腑拔けで腰拔けで
いつもぼんやり椅子の番 おしかつんぼかわからない
ああわからないわからない 乞食に捨兒に發狂者
スリにマンビキカツパライ 强盜竊盜詐欺取財
私通姦通無理情死 同盟罷工や失業者
自殺や餓死に凍え死に 女房殺しや親殺し
夫殺しや主殺し 目も當てられぬことばかり
無闇矢鱈に出來るのが なぜに開化か文明か
ああわからないわからない なぜにわれわれ人間は
たがひに斯くまで齷齪と 朝から晚まで働いて
苦しい目に遭ふ難澁の 事に出遇ふて死ぬよりも
辛い我慢をしてまでも 命を續けてゐるのやら
何をああてにながらへて ゐるのかさつぱりわからない
我身で我身がわからない 我身で我身がわからない



(2013.4.18)